前回、国家総動員法の制定とそれに伴う“勅令”について見てきたね。
総力戦体制に入るため日本は、国のヒト・モノを良いように動かせるようにしてしまったんだったね。
国家総動員法の影響で、一般国民がふつうの生活をするために必要な「食料」や「生活必需品」も国に統制されることになる。
その代表的なものが、「配給制」「切符制」という制度だ。
詳しく見ていこう。
戦時中の日本って実は・・・
第一次近衛内閣によって制定された国家総動員法以降、日本は段階的に「計画経済」になっていった。
この「計画経済」って言葉、どっかの国の話で聞いた覚えがない?
そう、ソ連だよ。
社会主義国家だったソ連は、計画経済を採用していた。世界恐慌の時も、計画経済だったが為に影響を受けずに経済成長できていたんだったよね。
つまり戦時中の日本は、社会主義に近い状態だったんだ。(厳密には国家社会主義、なんて呼ばれる)
当時の日本の官僚たちの中には、世界恐慌でノーダメージだったソ連をみて「もしかして計画経済ってめちゃくちゃ良い仕組みなんじゃね!?」と考える人たちがいた。
日中戦争のせいで資金・物資不足になることが予想されたんで、これを機に官僚たちは社会主義的な、計画経済を推し進めていくことになる。
さて、計画経済では、モノやカネの配分が国によって決められる。
日本は、ソ連みたいに食料から日用品に至るまで、徹底的に統制を始める。
その代表的なものとして「配給制」「切符制」というものがあるわけだ。
「配給制」「切符制」の違い
まず最初に答えから。
配給制と切符制には、
- 配給制=「生きていくのに欠かせない食料(主に米)」
- 切符制=「命に直結しない日用品(衣類や砂糖、マッチなど)」
という違いがある。
配給制は具体的に言うと、国からもらえる手帳を持っていれば、米やイモなどを「無料に近い額で」購入することができるという制度。
“配給”と聞くとタダで配られているイメージあるけど、ここでいう配給制はあくまで有料なので注意ね。
原則手帳を持っている人には平等に米やイモなどが配られることになっている。
どうしても米が足りない場合は、イモだけ配られたり最悪配給されないこともあった。
一方で切符制はちょっと複雑。
まず一人一人に点数つきの“切符”が与えられる。そして、その切符で決められた点数以内なら欲しいものを選択して買うことができるという制度だ。切符の期限は一年間。
例をだそうか。
まず、A君が100ポイント分の切符をもらったとしよう。
A君は、「最近服がもうボロボロになってきちゃったから、シャツは欲しいなあ。靴下もダメになっちゃったし。ごはんのおかずに味噌も欲しいな」と考えたとしよう。
交換所に行くと、切符で買えるものにそれぞれポイントがついている。
A君が買いたかったシャツは12ポイント、靴下は7ポイント、味噌5ポイントだった。合計24ポイントだね。
A君はこの3つを全部買うことにした。するとまず、A君の持ってる100ポイントから今回のポイント24ポイントが引かれる。残り76ポイント。
で、そのあとシャツ・靴下・味噌の代金を払う。
ここがポイントね!切符でモノと交換できるんじゃなくて、切符はあくまで「買う権利」だということ。代金は別途必要になるんだ。
残ったポイントだけど、次また100ポイント新たに配られるのは一年後。
だからA君は残った76ポイントを上手いことやりくりしなくてはいけないよ。
なんで食料品は切符制じゃないの?
配給制と切符制、わざわざ分けているのには理由がある。
前提として、国はあくまで「計画的な」経済をしようとしている。
例えばシャツなら「大体国民が必要とするシャツはこのくらい、だからだいたいその数ぶん生産して無駄をなくそう」とか考えているのね。
切符制で他に選べる味噌とか砂糖とかもこんな感じで大体必要な量を計算している。
だけど切符制で選べる品目の中に米を入れるとどうなるか。
戦時中でいつどこで何があってもおかしくない状況、そんななかで一番必要なモノと言ったら何か。シャツ?靴下?味噌?
いやいや、どう考えても食料。米やイモが欲しいよね。
だからもし米を切符制にすると国民の中には、「食料がなかったら生きていけないじゃん!切符のポイント全部使って米買おう」と思う人も当然出てくる。買占めが起こりやすくなってしまうんだ。
これでは国としても計画を立てられなくなってしまう。
だから米は切符制ではなく、配給制にしてある程度平等に行きわたるようにしていたんだよ。