寄進地系荘園が誕生したのは、国司によるムチャな増税への対処がきっかけだったよね。
大金持ちってのは大体それ相応の権力を持ってるんで、国司たちも横暴な徴税がしにくかった。
だからそこまで権力がない小金持ちたちは大金持ちに寄進をしたわけだ。。
で、その大金持ちたちはさらに権力のある名門一族らに寄進するようになった。
例えば藤原氏とかね。
名門一族の中には、当然朝廷内でもトップクラスの権力持ちもいる。
そのため、自分の一族のもつ荘園の利益のため「自分の荘園からは税を取らない」という許可証を出させたりし始めた。
どういうことなのか、詳しく見ていこう。
不輸の権
まず不輸の権の意味を一言でいうと、「荘園にかかる租税が免除される権利」のこと。
租税のかかる田んぼのことを“輸祖田”と言うことから、“不輸”と呼ばれている。
冒頭でもちょこっと触れたように、大金持ちの貴族や寺社は政治的な権力もかなり大きかった。
そのため、朝廷の官僚(太政官とか民部省とか)に働きかけて太政官符や民部省符といった許可書を出させて租税を免除させるということを行った。
この太政官符・民部省符を持った荘園は別名「官省符荘」と呼ばれる。
不入の権
不入の権は、一言でいうと「官僚(国衙の連中)が荘園に入ること自体を拒否できる権利」。
これ結構ものすごい権利だよね。
不入の権は、不輸の権を持つ荘園の多くが一緒に持っていた権利だ。
ここで、「不輸の権があるならどうせ税は徴収できないんだし、官僚たちはわざわざ荘園に立ち入る必要がないはず・・・。なのにどうして不入の権が出てきたの?」と思う人もいると思うんだ。
実はね、新しい田んぼを開発した場合は、例え不輸の権を持っていても
一度は官僚がやってきて調査しに来る決まりがあったんだ。
確かに国司たちは既に不輸権を持っている荘園からは税をとれない。
そこで、「新しくできた田んぼにはまだ不輸権が認められてない!」と主張してそこから税をとろうとしていたわけね。
荘園領主側は当然新しい田んぼに租税が課されるのはイヤ。
だからそもそも官僚の調査をできなくしてやろうということで、不入の権を認めさせるようになったわけ。
ちなみにこの後不入の権は拡大解釈されて、「警察も荘園に入れない」「荘園内の警察行為をする権利は全部荘園領主がもつ」みたいな権利も付属するようになった。ヤバいね。
この権利、与えていいの!?
前回の記事(https://jahistory.com/kishintikei-syouen/)を読んでくれた人は、不輸・不入の権の説明を見て「この権利を認めちゃったらますます朝廷の税収減るんじゃないの?」という疑問が浮かんでくると思う。
実際、朝廷の税収減るんだ。この2つの権利認めるとね。
そりゃあ年々寄進で大規模になっていく荘園から税は徴収できないわ、新たに開墾した土地からも税がとれないわじゃお金なんて入ってくるわけないよね。
じゃあなんで朝廷側は認めちゃったのかというと・・・。
そもそも小金持ちが大金持ちに、大金持ちがさらに大金持ちに・・・という寄進ループをやっていくと、
最終的に荘園が行き着く先は、朝廷でも権威のある「名門一族」のもと。(特に藤原氏)
藤原氏とかは朝廷で絶大な権威があって、藤原一族の多くが官僚として働いていたんだけど、
このころの朝廷は荘園の出現や口分田不足などなどで財政難。官僚への給与もシケたものになり始めていた。
そこで藤原氏は考えた。
ショボい税による収入は捨てて、あえて自分たちの持つ荘園に不輸・不入の権を与えて免税させ、荘園から利益を得るという方法に切り替えよう、と。
極端な例え話だけど、自分が会社Aの社長かつ総理大臣で、自分の都合のいいように法律をいじれる立場にあると考えてみて。
自分がその立場なら、例えば「会社Aは法人税ゼロ!」とか「会社Aには税務署の調査入れません!」とかいう法律作って、自分の会社を有利にするよね。
こんな感じのことを藤原氏たち名門一族はやっていた・・・というイメージを持つと想像しやすいんじゃないかな。ものすごく極端な話だけどね。
政治を事実上動かしていた藤原氏にとっては、もはや国税の収入よりも、自分の荘園から税が取れればいいやって状態だったからこの権利が認められていったわけだね。